高木正勝さんのコンサートに行くのは2010年から数えて4回目になる。
内1回は民族楽器や弦楽器も加えた編成で、他2回はピアノソロコンサートだった。ピアノコンサートでは高木さんの鳴らす音楽に合わせて、彼の映像作品がスクリーンに映し出されていた。
だが今回は映像がない。
「こういうイメージ、というのは無いので、皆さんそれぞれに浮かんだ情景を持ち帰ってほしい」
細く静かな優しい声で高木さんが言った。聴覚を除く四感は、お客さん各々に委ねられた。
高木さんは山奥の小さな村の古民家に住んでいる。
鳥の声、木々のざわめき、虫の声、風の音 遠くや近くで鳴っている音
その土地では日常に溶け込んだ音。日常的だけど不規則で思い通りになんてならないそれらに合わせて(!)ピアノでセッションする。
日々そうして作った楽曲を集めたアルバムが、コンサートの表題にもなっているMarginaliaだ。
高木さんの音楽が呼び覚ましてくれるイメージは、どれも精彩で星彩で精細だ。そしてどれもが懐かしくて、私や誰かにとっての夏休みや冬休みのような和らぎがある。
「あ、今海から満月が昇った」
「誰かと誰かが初めて手を繋いだ」
「子守唄を歌ってる」
「先を歩いてる誰かの肩口に木漏れ日が差してる」
こんこんとイメージが湧き上がってくる。会場のお客さん全員の、それぞれに浮かんだ情景を覗いてみたかった。一つのイメージを共有できなくてもいい、高木さんの無欲でおおらかな音楽と、作り出す空間が大好きだ。描くイメージは自由だけど、身も心ももたれさせてくれる優しさに溢れてる。
ピアノの周りには何本ものマイクが置かれていた。ピアノの音そのものだけでなく、ハンマーが弦を叩く音、タッチした鍵盤が沈みきった音も聞こえた。そうした、音が響く前に発生していた感触までもが伝わってきて、ピアノ一台を味わい尽くしたような贅沢で有難い気持ちになった。
2018.11.23 たましんRISURUホールにて
高木正勝 ピアノソロ・コンサート2018「Marginalia」